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2018-10-12 15:13:00

特定社会保険労務士

 筈井弥生(はずい・やよい) 

 

  法務に強い社労士として、企業の成長をバックオフィスで支える

 

 

社会保険、給与計算、勤怠管理など、社員が安心して働くために必要な基盤部分を整えて支える、人事労務の仕事。社会保険労務士(以下、社労士)の筈井弥生は企業の法務部での経験も長く、法務の豊富な知識を持ち合わせている、人事労務のスペシャリストだ。

 

 

筈井は現在フリーランスとして企業の人事労務を担っている。クライアントの多くは創業から12年ほどのベンチャー企業で従業員数が1030人規模。こうした企業では人事労務の需要が高まるタイミングがあるのだという。

 

 

「スタートアップから1年くらいは多忙のあまり、経営者も社員もバックオフィスに意識が回らず、人事労務もとりあえずの形でこなすことになります。ところが12年経って事業も軌道にのり、従業員も増えてくると、きちんと人事制度や社内制度を整えたいというフェーズになる。そうしたタイミングで人事労務の仕事をご依頼いただくケースが多いです」

 

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徹底的に現場を知り、運用後までイメージ

 

 

社労士の仕事とひとくちに言っても、引き受ける領域は企業の状況や希望に合わせてさまざま。給与計算ソフトの選定〜給与計算、社会保険手続き、勤怠ソフトの選定といった基本的な業務から、就業規則の作成、出張旅費規程の整備といった人事制度の構築まで手がけることもある。給与計算ソフトや勤怠管理ソフトは何百種類とある中から、企業規模、企業の考え方、コストなどを加味してフィットするものを選んでいく。

 

 

「人事労務の仕事は、ほぼオーダーメイドの仕事。使用するソフトは企業によって違いますし、ソフトが違えば当然動作も違うので、毎回念入りにデモをしながら丁寧に組み立てていきます」

 

 

こうした運用前の作業において彼女が心がけているのが、「現場を知る」こと。社員がどのような働き方をしているか、どのような業務であるのか、どのようなものなら負担なく使ってもらえるのか・・・過去の出勤簿など参考になる資料にはすべて目を通し、運用後をイメージして、社員にとって本当に使いやすいものであるかを見極める。「いくらいい仕組みができたと感じても、実際の運用との間に乖離が生じるかもしれない。それを避けるためには現場をよく知ることがとても重要なのです」。運用の先までを見越した配慮の深さを感じる。

 

  

法律の世界を経てたどり着いた社労士の仕事

 

 

筈井が細やかな心づかいをもって、フリーランスのスペシャリストとして企業の人事労務を支えるまでに至るには、ちょっとした紆余曲折のストーリーがある。

 

 

中学時代に「世の中は法律でまわっている!」と開眼し、大学の法学部で労働法を選択した。ところが大学の勉強では、今ひとつ法律の奥深さに気づくことができず、進路に疑問を感じ始めた。専門職に就きたいという思いから、法律を学ぶ一方で税理士を目指して昼夜電卓を叩き続けた時期もあったが、さまざまな道を模索した結果、新卒で勤めた法律事務所で秘書兼パラリーガルとして働きながら、社労士の勉強をして資格を取得した。

 

  

「昔思い描いたような、法律にどっぷり浸かる道は選ばなかったけれど、法律に近い領域で何か支えていけるような仕事、何かしらの資格を取ろうという思いがあって。行き着いたのが社労士でした」

 

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バックオフィスとは何かを学んだ企業での経験

 

 

 その後、サービス業を主とする企業の法務部に転職。彼女いわく「法律の勉強はしたけれど、契約書も1から作ったことがないところからのスタート」。業務の中で数えきれないほどの契約書の作成・修正・契約交渉を経験し、法律の知識を生かして訴訟や紛争の対応といった仕事もこなしながら、企業法務の何たるかを身につけていった。

 

 

10年間の勤務の中で、BtoBの書類関連だけでなく、BtoCの規約作成や顧客対応に関する相談、個人情報保護の取り組みなど法務としての幅広い業務を経験しました。総務・人事面では就業規則や社内規則の作成に携わり、社内研修の講師をすることもありました」

 

 

最終的には35歳の若さで法務部長を任されるまでになった筈井だが、実は途中数年間に営業を経験しており、その時の経験がバックオフィス業のスペシャリストとしての彼女を大きく成長させたのだという。

 

「営業に異動になった時、バックオフィスから離れてみて初めてああ、バックオフィスってこういう存在なんだなと俯瞰的に見ることができた。変な話ですが、これまで契約書のことばかり考えていた私が、営業の仕事を始めたら契約書の存在がどうでもよくなってしまって(笑)。現場の仕事で頭がいっぱいになるから、大事だとわかっていても契約書は頭の外にやってしまう。契約といっても書類ありきではないことを実感し、現場で働く人たちの気持ちがよくわかったんです」

  

 

その経験から、自身の仕事ぶりを顧みた。現場の社員が対応しやすい工夫は何か、契約書や申請書をわかりやすく案内するにはどうすればよいのか。そこまで考えてこその仕事だと気づかされた経験だったという。「バックオフィスというのは、言ってみれば社内のサービス業。ルールを押し付けるのではなく、ルールを守ってもらうための工夫をする、守れない理由を突き詰めて改善するといった努力が求められるんです」。フリーランスとして人事労務に携わる今も、この想いは変わらない。

 

 

法務部長ポジションからの独立開業

 

 

企業法務の仕事にやりがいを感じ、法務部長として充実したキャリアを築いてきた彼女が独立したのも、自身の成長を考えてのことだった。

 

 

「社労士の資格を持っていながら、給与計算や社会保険の手続きといった、社労士としての基本の仕事の経験がなかった。人事労務に関する複雑な書類を作ることは得意だし、人事系のトラブルの対応も得意。でも、そういった案件はイレギュラーなもので、人事労務の基本はやはり毎月の給与計算だったり社会保険の手続きだったりする。基本的な部分がわからないのに本当に社労士としてスペシャリストと言えるのかな?と思うようになって。基本をきちんと経験したいけれど社内での異動は現実的にムリだとわかっていたので、それなら独立して自分から経験を掴みにいこうと決めました」

 

 

人事労務の経験があるとはいえ、未経験ゾーンも抱えての「社労士」としての独立。本や研修会での勉強に加え、給与計算ソフトを使ってのシミュレーションなど、とにかく独学で猛勉強した。さらに「社労士」という看板を掲げる前に一度は現場での経験を得たいという思いから、小さな企業で総務を始め、労務まわりの書類作成や給与計算のサポートをしながら経験を積んだ。

 

 

 

企業の力を向上させる社外アドバイザーでありたい 

 

今は、複数社の人事労務のコンサルティングを手がけるプロとなった。数十社を同時に請け負う社労士も少なくないが、「同時に引き受けるのは34社まで」と決めている。

  

 

「クライアント11社に時間をかけて仕事をする形が理想。それぞれの案件を丁寧にコンサルティングしたいという気持ちが強いです。なんとなく知ってはいても、人事労務の正しい知識や法改正情報まで把握している企業は多くありません。そんな中で、働く環境をより良くしたい想いで私に任せてくださるわけですから、小さなことでも丁寧に、何度でも説明して納得してもらうことを大切にしたいんです」

  

 

自身の強みは、社労士でありながら法務経験も持ち合わせていることだと筈井は考える。法務は社労士の仕事に生かされる部分が大きいため、現在もパートタイマーの法務の仕事を社労士と平行して続けている。パラレルキャリアが相乗効果を生み、双方の仕事の質がより向上されるのが理想型だ。 

 

 

「社労士のやりがいは、自身が手がけた仕組みや規則が社員の安心につながるという実感にあります。新商品や新企画などの業務に直接関与するものではありませんが、バックオフィス業を通して企業の成長を垣間見られることにワクワクさせられます」

  

クライアントから切り出された仕事をただ全うするだけに留まらず、自身が持っている知識や経験を社員に伝え、教育していくことで、企業の力を向上させていく。そんな、社外アドバイザーのような存在としての活躍をめざしている。

 

 

 (聞き手 横山さと https://typeslow.tumblr.com/tagged/sato )


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