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2018-12-05 22:49:00

社会保険労務士 長山景子(ながやま けいこ) 

 

社会保険労務士(以下、社労士)の長山景子はフリーランスとして独立してから13年目を迎えるベテランだ。働き方の選択肢を増やす方向へと社会全体が舵をきる現代において、長山は時代を先取るようにこの13年、ライフイベントに対応しながら実にフレキシブルにキャリアを築いてきた。

  キャリアのはじまりは、新卒で入社した地元・福岡のガス会社。人と接することが好きでもともと営業を希望していたが、配属されたのは人事部。給与計算など人事労務の基本の実務を習得した。営業で人と接したいと願っていたが、実際に働いてみると人事部は社員11人と接する機会が多く、「人事労務は社内の営業のようなものだな」と感じ人事労務の仕事にやりがいを見出した。

  

●「開業してこそ生かされる資格」と背中を押されて

 

  そして、5年間勤務した後に結婚。パートナーが転勤族であり、福岡から東京へ転居する必要があったため会社を退職し、転出先で派遣として総務の仕事をする傍ら、社労士の勉強をスタートした。

  「求職活動をしている際に、“何か資格はありますか?”と質問されることが多くて。人事労務の仕事を好きでこの先も続けていくのなら、経験だけではなく、明確な後ろ盾があるほうがよいのではと感じました。以前から漠然と社労士への興味はもっていたのですが、この機会に本気で資格を取得しようと決心しました」

 こうして社労士の勉強を開始し、無事に取得に至った折には再びの転勤で大分に暮らしていた。晴れて社労士の肩書きを得たものの、この先のキャリアについて悩んでいたという。「社労士会の地元の支部長にお会いする機会があり、社労士の資格は開業してこその資格ですから頑張って、という言葉をもらったことが開業の後押しになりました」と、長山は当時を振り返る。

 

 ● 転勤を言い訳にしない。その時その場所でできることを

 

 とはいえ、開業したところで転勤族であることに変わりはない。実際、大分で開業した1年後には山形へ。その後も東京、徳島、神奈川と数年ごとに転居している。また、この間に2人の子どもを出産し育児もスタートしている。どうしても制約ができてしまう難しい環境の中で、それでも柔軟に、そしてポジティブに社労士の仕事と向き合い続けてきた。「転勤族だから、子どもがいるから・・・と自分の状況を言い訳にするのではなくて、その時、その場所で、目の前のやるべきことに一生懸命取り組もうと開業の時に決めたんです」。そんな言葉に、彼女のたくましさ、懐の深さが垣間みられる。

  そんな長山の人柄は、クライアントの多様さにも表れている。「大分は温泉地なので、小売店の立ち上げなど観光まわりのクライアントが多かったんです。それが山形へ移ると今度は工場が多い土地でしたので、いろいろな工場がクライアントとなり、大分時代とはまた違う学びや発見がありました。都心では翻訳端末開発のIT企業やデザイン会社、歯科医院、設備工事会社、めずらしいところでは築地市場のマグロ仲卸会社など。」

  

長山が担うのは給与計算や入退社手続き、就業規則作成をはじめ、各種助成金の申請代行、労働者派遣事業や職業紹介事業などの許可申請代行。大分で開業した際は、自ら年金事務所や労働基準監督署など役所機関へ名刺を持って挨拶に出向き、そこでの出会いが縁となってさまざまな地元企業とつながった。そして引っ越しの際には、転出元の機関から転出先の地元機関に縁をつないでもらうこともあり、新しい土地でまた多くの地元企業と出会うことができた。

 

もちろん人からもらった縁だけではない。ある時はセミナーで隣の席に座った相手、あるいは講座を共にしたメンバーと積極的につながり、ある時はオンラインでしか付き合いのなかった税理士に思い立って面会に行き・・・持ち前の行動力で人との緩やかなつながりを大切にしながら、さまざまなクライアントと出会ってきた。そして個性豊かな経営者・労働者の声にしっかりと耳を傾け、労務を通してまさに「多様」な業界や業種を見つめてきたのだ。フリーランス13年目となった今も、1年目に出会った大分時代のクライアントの仕事を継続しているというのは、彼女の人望あってこそだ。

  

● キャリアコンサルの勉強で学び直した「傾聴」

  

そうして経験を培ってきた長山だが、2018年からは都内に根を下ろし、自宅兼事務所を構えている。子どもたちの成長に合わせた選択であると同時に、自身も腰を据えて社労士として成長していこうという決断でもある。4年前にはキャリアコンサルタントの資格も取得した。

 

「社労士の経験を重ねていく中で、自分はどんな社労士になっていきたいのか、方向性を考える時期がきました。やはり自分は人と対話するのが好きだということがひとつ、それから私がキャリアコンサルタントになることでクライアント企業にメリットを与えられること、私自身が社労士としても大きなメリットを得られること。それが資格取得を考えた理由です」

 

キャリアコンサルタントの資格取得の過程で、改めて発見したことがあるという。それは傾聴の姿勢。「それまでもきちんと傾聴してきたつもりでしたが、実技講習で細かく指導してもらうと目からウロコで。ここまで丁寧に聞いてはじめて傾聴といえるのだな、と。この時に身につけた傾聴の姿勢が、社労士の実務でもとても役に立っていると感じます」。以来、クライアントと対話する際には、相手が本当に求めていることは何か、本当の課題は何なのか、話の背景にはどのようなことがあるのか――そこまで汲み取ることを心がけている。

  

AI時代を見越して新たな分野にも挑戦したい

  

社労士とキャリアコンサルタントの両輪で、働く人を支える長山。昨今の社会の風向きもあり、労務まわりを整えたいという企業のニーズは耐えない。中小企業の中には経営者の自己流で労務が行われてきたケースが多く、社労士としては「当たり前」だと思っていたことがまったく浸透していないことも多い。「なんとかしたいけれど知識がなくわからないというクライアントに対し、自身の専門知識と経験で役に立つことができるのが社労士のやりがいです」。近年は外国人を採用する企業を担当することもあり、より多様なケースに対処できるスキルが必要になってきていると感じている。

 

「社労士の仕事でおもしろいと感じるのは、たったひとつしかない法律に、たくさんある持ち駒の中から最適なものを当てはめていくこと。業種などの特徴によって、あるいはクライアントの想いや価値観によって、何がぴったり当てはまるのか探していく。例えば労働時間制度を変えるといっても、フレックス制なのか、変形労働時間制なのか、裁量労働制なのか、その中でもどの時間をどう設定するのかなど、選択肢はいくらでもあります。同じような業務内容の会社だとしても合うものはまったく違うかもしれない。そこを、ひとつの法律の下、いかにフィットさせられるかが手腕の問われるところであり、この仕事のおもしろさでもあるのです」

  

社労士のやりがいを実感する一方で、新しい分野に挑戦する心意気も忘れていない。「AI時代が到来すると言われていますが、私が得意とする業務の中には、将来的に不要になる見込みの仕事もあります。ですから、目の前の仕事に取り組むと同時に、AIにはできないような、オリジナリティのある専門性を習得していくことも視野に入れなければと考えています」。これまでも制約の中で前向きに、柔軟にキャリアを築いてきた彼女はきっと、新境地も軽やかに切り開いていくに違いない。

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 長山景子 2児の母、趣味はジャザサイズ

 

(聞き手 横山さと https://typeslow.tumblr.com/tagged/sato ) 


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